Interview

TOMOVSKY

2023/07/15

イヤな奴からはさっさと離れろ!

日常のリアルを切り取った最新アルバム『BELL』と、あれこれ。


──すべての楽器のプレイはもちろん、ご自身のCDジャケットや小説の表紙を描かれて画集も出版し、マルチな活動をされています。まず、それぞれを始めたきっかけを教えてください。

TOMOVSKY:音楽を作り始めたのは、やっぱり人の曲だと人前で歌うのが恥ずかしいっていうか。歌詞やメロディが歌いやすいものを……と思ったら、自分で作るしかないなーって。ジャケットは、絵を描くのが好きってのもあったけど、自分で描いたら、なんか諦めもつくじゃん(笑)。

──今回のアルバム『BELL』のジャケットを見て思ったのですが、写真を撮るのもお好きですか?

TOMOVSKY:そうだね。古い工業地帯とか、ああいうのはつい撮りたくなっちゃう。でも、ジャケット用に撮るというよりかは「こんなカッコいい建物がある!」とかで。後々「絵より写真の方がカッコいいや」ってときに使う。今回の『BELL』もそうだね。

──楽曲「BELL」は、アルバム制作の終盤に火の見やぐらを見つけて出来たと読みました。“ただ鳴らすだけ そこから先は音が連れてくよ”という歌詞が、トモさんの音楽を象徴しているように感じました。

TOMOVSKY:俺も、それ、かすった気がする。けど、そういうのクサいじゃん? 自分の芸風としては。たまたま火の見やぐらの鐘が鳴って「あ! 自分のやってることって似てたなー」って、後で気づいた感じです。

──「やさしいしくみ」の“忘れていくことを怖がらなくていい”という言葉が胸に響きました。これは、以前リリースされた「忘却toハピネス」の続編ですか?

TOMOVSKY:「忘却toハピネス」は、若い頃は色々忘れていって、残ったものが大切って歌だったんだけど。それの真逆になってきたってことかな。

──真逆ですか?

TOMOVSKY:大事なものばかりが残っていったら、最期すごく辛いって思うから。大切なものから順々に忘れて……例えば息子の顔を忘れるとか。その方が最期は楽じゃん? 知らない人に囲まれて「ここどこだっけ?」って状態になったら、その方が楽だなと。神様はうまいことやるな、って思って作った。

──では、楽曲全体についても聞かせてください。トモさんの曲には「脳/時間/夜」という3つの大きなテーマがあると感じます。

TOMOVSKY:「夜」は絶対。夜に作る曲ばっかりだから、ついつい歌ってしまうね。あと「時間」も。歳を取ることとかさ、それをテーマにする人は少ないけど、普通みんなも考えてると思うんだよね。時間って常に隣にあるじゃん? だから、ついつい歌ってしまう。自分が大事にしてるのは、とりあえず自分が考えたことしか歌わないことですね。

──本当のことしか歌にしないということですか?

TOMOVSKY:今回の「BELL」みたいに、時々思いっきりフィクションを作ることもあるけど。基本は、作詞にTOMOVSKYって載っちゃうんなら、自分が思ってないことを曲にするのは恥ずかしくて出来ないですね。

──作詞、作曲、演奏、録音、ジャケットデザイン全てをお一人で担当されていますが、責任感や、大変さを感じる場面はありますか?

TOMOVSKY:責任はあんまり感じてないね。みんなもやってみれば分かるけど、今ってさ、DTMは部屋で出来んじゃん。みんな、そのほうが気楽だってきっと思ってるよ。大勢で時間を決めてスタジオに集まって、あーだこーだ言い合って。それが楽しい時もあるけど、一人で曲を仕上げちゃった方が楽だよ(笑)。それを団体でやる時は、聴いてもらって自分の形で演奏してもらえればいいからね。

──トモさんの歌詞は、1行が短く、浮かんだ言葉をそのままの状態で音に乗せているように思います。言葉へのこだわりを教えてください。

TOMOVSKY:カッコ良すぎる、照れくさい言葉は使わないようにしてる。「繋いだ手と手離さないで」とか(笑)。まあ、それは思ってないからだけど。

──最低限の言葉で、最高に重いことが歌われていますよね。

TOMOVSKY:そうだね。五七五とか、ああいうの面白いじゃん? そういうのに似てるかも。曲にしてる時点で日記とか小説とかじゃないんだから、やっぱり短めにしないと。短い方が強いから。繰り返せるしね。

──曲が持つ力が強くなるという?

TOMOVSKY:なんか、音として強い。でも憧れるけどね、長い歌詞も。文学的で、説得力のある感じに聴こえるじゃん?

──歌詞には、日常のことを書かれることが多いですよね。普段、考えていることを残すメモなどがあるのですか?

TOMOVSKY:メモ帳を持ち歩いたりはしないけど。こういう考え方をしたら楽だなーとか、思いついたら忘れないように、スマホに「ほにゃららー」って言ったり。ウチに帰ってダッシュで2行くらい書いておくとかはあるよ。で、その時はノートの右上に、でっかいMマークを書く。ミュージックの「M」ね。

──ミュージック……?

TOMOVSKY:印をつけておいて、「あーなんか曲作ろ」とか「歌詞なんか無いかな?」とかいう時にMマークを探す。「これ面白いから3~4行目足そう!」とか、そういうのに使うためにM印をつけてるの。

──逆に、ノーマークのメモは何なのでしょう?

TOMOVSKY:「今日なにしました!」とかじゃないけど、その時の気分だけ書いてあったり。あと、明日の予定とかね。明日、これだけはやろう。できたら○、できなかったら×、中途半端だったら△とか。毎日じゃないけど、月に1回ぐらいそういう日がある。

──日記ともToDoリストとも違うんですね。

TOMOVSKY:うん。日記っていうか、ノートだね。書くと忘れないから好きかな。書かないと、また同じこと考えちゃって勿体ないじゃん? 時間とか脳とか。だから同じことをまた考えないように書いたりする。そうそう、それも歌にしてて「紙に書く」って曲もある(笑)。けど、やっぱり器が一緒だからね。人間って。結局、同じことを繰り返して書いちゃうの。そこは悔しいよね。

──ラブソングについてはどうお考えですか? トモさんの楽曲には少ないですよね。

TOMOVSKY:俺ね、ラブソングは「人前で歌ってないで当事者に言えよ! 」って思っちゃうんだよね。そこら辺が、自分の中でルールがあって。

──当事者に言えよ……(笑)。

TOMOVSKY:ラブソングじゃないようで、ラブソングに聴こえるやつってあるじゃん? バンドの人間関係とか歌ったような。そんぐらいで、俺はいいんだよね。いわゆる彼氏彼女的なラブソングは、人前でよく歌えるなーって思うよ。そういうのは俺には向いてないね。

──他者のことは歌にしないという……?

TOMOVSKY:人のことは歌にしないなー。だって嫌じゃん? 私のこと歌にしてんだーとか思われるの。褒めてるならいいけどさ、こういうメールをもらったよーとか歌われたら、メール送った人も嫌だよね。きっと。メールくれなくなっちゃいそうだしね。だから俺は、人のことは歌にしないな。あと、曲にすると、作った日の気分が残っちゃうわけじゃない? でも、自分の気分でさえいつかは変わるかもしれないのに、人のことなんか歌ったら……。その人はもうそんな気分じゃないかもしれないのに、それが曲に残っちゃうなんて恐ろしい。だから最低限、他人のことは歌にしちゃいけないっていう暗黙のルールがある。

──次にライブについてお伺いします。一度、観に行かせていただきました!

TOMOVSKY:お! どうだった?

──会場のみんなで作り上げている感じで、とても楽しかったです! お客さんに対しては、どんなふうに考えてライブをしていますか?

TOMOVSKY:演る側と観る側の区別はあっていいけど、それが偉そうになるのはイヤだなって思ってる。同じライブの船に乗っている者同士。そういう気持ちの方がやりやすいの。お客さんと自分は一緒みたいな気持ち悪さ、偽善みたいなのじゃないよ? たまたま演る側と観る側になってるだけで、それぞれみんなしっかりした人間と思ってる方が楽で。

──ライブを観ていると、年齢についての曲が多いなと思いました。

TOMOVSKY:多いよね。誕生日になるたびに、歳にちなんだ曲を作るから。みんな誕生日に……56から57になる時とかさ、これを記念に曲を作ろうとか思わないの? 俺は思うんだけどさ(笑)。

──思わないですが(笑)、トモさんの年齢の歌に励まされています。36でも52でも、先にトモさんがその年齢のことを素敵に歌ってくださるので、歳を重ねることが楽しみになります。

TOMOVSKY:そうだ。「52」は、“ご自由に”だった。いつかみんなが辿る歳を、先回りしているトモフです(笑)。

──ライブではほぼ毎回、新曲を演奏するそうですね。

TOMOVSKY:うん、自分内のルールで。そういう新しいのがないと、ちょっとワクワクしないっていうか。モチベーションですね。

──アートについてもお聞かせください。トモさんの絵には「光」を感じさせる作品が多いと思いました。

TOMOVSKY:たしかに。絵はほんとアレだね、曲と真逆で写実派ではないね。こういう構図面白いなーとか想像して、わざと地面を丸く歪ませたり、鯉のぼりのバックに月を置いてみたりとか。こういう景色が面白いっていうのを、わざと作ってるね。

──光は、どのようにして表現しているのですか?

TOMOVSKY:クレヨンを力強くガッガッてやるとすごく気持ちがよくて。青とか緑とかで塗ったとしても、上から白でガシガシやる。光を表現できるのって気持ちいいよね。それをクレヨンで表現できるのが、すごくいいの。多分あれ、幸福物質とか出てるんじゃないかな(笑)。光が表現できた! しかも太陽を描いてないのに! とかね。月を描かなくても影を濃くすると「絶対こっちに光がいるんだ」ってのが分かるの、嬉しいよね。

──話は変わりますが、双子のハルさん(Theピーズ)も同じ音楽の世界で長く活躍されています。刺激は受けるものですか?

TOMOVSKY:昔、10年ほど一緒に住んでた時は、お互いどんな曲やってるとか知ってて、たまにライブも行ってたから刺激になってたんだろうけど。もうずっと住んでないし、あんまり人のライブというか……外に出ることがないのね。普段、コンビニとスーパーしか行かない。だから刺激とかもないなー。俺、音楽からは刺激を受けてないんだと思うよ。

──ハルさんが同じようにずっと続けていることが頼もしい……とかは?

TOMOVSKY:ハルってのはないよ。同世代のみんなが頑張ってるのが、頼もしいというか「もう、誰かサボってよ」みたいな(笑)。誰かがサボったら、俺ももっとサボれるのに。みんな頑張ってるから、自分が頑張っても目立たなくて困る。そういうのを刺激っていうのかな? 誰々が頑張ってるから俺もとか、そういうのはなくって、「あんまり頑張んないでよー」って感じ。

──たしかに、人の頑張りはプレッシャーになるかもです!

TOMOVSKY:例えばさ、よく、オリンピックのアスリートが「自分の頑張りで、国民の皆様に勇気を与えられたら」とか言うけど。「嘘つけ、自分のために頑張ったんでしょ? それでいいじゃん!」って。そういう感じだよね。人の頑張りが自分の頑張りに繋がるってことはない、そんな余裕はない……。

──大学時代にカステラ(バンド)で音楽業界に入ってから、これほど長く続けられているモチベーションの源を教えてください。

TOMOVSKY:あんまり積極的なモチベじゃないけど、他のことの方が辛そうに見えたから。俺の場合は、一番これが楽。楽な方、楽な方を選んだら、こうなった。“楽な方へ行け!”って曲も作ってる(「いとしのワンダ」)。人って多分ね……人ってくくっちゃいけないんだろうけど、楽な方へ行った方が、楽ってのは手抜きができるとかじゃなくて、気持ちが楽ちんな方向へ行った方が、絶対いいと思う。

──楽なことと、楽しいことの違いはなんでしょうか?

TOMOVSKY:それは一緒だよ。よくさ「好きなことは仕事にしない」とか言う人いるじゃん。絶対そんなの間に受けない方がいいよ(笑)。好きなことを仕事にするのが一番儲かる。儲かるっていうのは、巨万の富とかじゃなくて、まあ一番、合理的にお金が入る。我慢してやる仕事って、意外とお金もらえなかったりするよね? 急に切られたりとかさ。

──た、たしかに。

TOMOVSKY:その代わり好きなことをやる時は、全力でやらなきゃいけないんだけどね。手を抜くと後で後悔するから。いつも頑張んなくていいんだけど、その時だけは頑張る。俺、濃淡が激しいんだよ。何にもしてない時は、ほんと何にもしないから。サボるの大好き(笑)。ただ、サボって何もしないよりかは、なんか作ってた方が、だんぜん気持ち的に楽しいのね。楽な方へっていうのは、そういう意味。

──楽な方へ。生きていく上で大切なワードだと感じました!

TOMOVSKY:時々さ、それは逃避だって言う人もいると思う。でも、自分が居心地がいいっていうその気持ちからは逃げちゃいけない。それ以外からは……イヤな奴と付きあうとか、あんまり好きじゃない仕事とか、そういうのからは全速力で逃げた方がいいよ!

──とても勉強になります。最後に、自分の好きに正直に生きているトモさんから、読者に多い学生に向けてメッセージをお願いします!

TOMOVSKY:イヤな奴からはさっさと離れろ! イヤな環境とか、けっこう人って我慢できちゃう。器用な人は、それで10年、20年と我慢できちゃうからさ。その時間は勿体ないよ、っていう。とっとと自分の気持ちの楽ちんな方へ全速力で行って欲しい。そんな感じです。

インタビュー&ライティング:小浜愛理・元生真由
撮影:栁澤智哉

Profile

千葉県成田市出身、大木知之によるソロプロジェクト。作詞、作曲、演奏、ジャケットデザインと制作の全てを1人で手がける元祖宅録系シンガーソングライター。作家・伊坂幸太郎の小説の表紙イラストを描くなど、音楽以外の面でも活躍している。日常を切り取った真っ直ぐな歌詞が印象的。昼より夜、犬より猫が好き。Theピーズのハルは双子の兄。

Web Site  http://www.tomovsky.com/

Twitter  @TOMOV_official

Release Information

19thアルバム「BELL」

NOW ON SALE

FAMI-033/¥2,750(税込)

Live Information

2023.7.16 @ 京都 紫明会館

2023.7.25 @ 東京 新宿 red cloth

2023.7.29 @ 東京 下北沢 CLUB Que

2023.8.5 @ 群馬 SLOW TIME cafe

2023.8.11 @ 東京 東府中 kettle

2023.8.21 @ 東京 渋谷 La mama

2023.8.25 @ 東京 下北沢 BASEMENTBAE

2023.9.3 @ 東京 代官山・晴れたら空に豆まいて

2023.9.6 @ 神奈川 F.A.D 横浜

2023.9.15 @ 北海道 札幌 Sound Lub Mole

2023.9.16 @ 北海道 札幌 円山夜想

2023.9.23 @ 大阪 堺FANDANGO

2023.9.24 @ 大阪 堺みなと音祭り

※詳細は公式Web Siteをご覧ください。