Interview

小林私

2023/07/15

美大卒、YouTubeチャンネル登録者16万人の

シンガーソングライター。

待望のメジャー第1弾アルバムを語り尽くす!


──まず、小林私という活動名の由来を教えてください。

小林私:本当のやつと嘘のがあるんですけど……。

──では、両方お願いします(笑)!

小林私:や、これどっちかだけなんで(笑)。嘘のやつを。小学生のとき教室の端の席だったんですよ。窓を開けて桜を見てたら、スーッと紙飛行機が飛んできて。それを開いたら種が入ってたんで「これは育ててみよう」と植えて1~2年ほど水をやってたら、結構大きい木になったんです。その木の名前が小林私らしいっていう……。

──名付けたですらないんですね()

小林私:あ、そうですね(笑)。パクったんですよね、木の名を。

──じゃあ本当の方を。

小林私:本当の由来か……恥ずかしいな(笑)。劇団ひとりさんがすごく好きで、彼みたいな名前にしたいなって考えがあって。小林は本名です。生まれた時に手のひらに私って書いてあって、じゃあ小林私だなって。……まあ、嘘なんですけど。

──嘘2連発いただきました(笑)。

小林私:まだありますけどね(笑)。そう、私って一人称で代名詞じゃ ないですか? 己という概念自体は自己中心的な意味合いを包括して いるけども、自分って存在自体は、他人と差がないと生まれないなって思うんです。人前で活動するならこの名前かなと思って決めました。 面白くないですね。

──いえいえ! 音楽活動や個展の開催、ダ・ヴィンチWeb、WEBザテレビジョンでの連載など、ジャンルの垣根を越えて活動されてい ますが、音楽を仕事にしようと思ったきっかけはなんですか。

小林私:音楽を仕事にするぞっていう気持ち自体は、いまだにあまりないんです。作詞作曲をするのが好きで、趣味で続けていたらみんなが聴いてくれてラッキー! って感じですね。

──音楽はいつから……?

小林私:高校2年の時にアコギを買って、一人でやるのが面白すぎるなって思って。そこから曲を作ろうと考えて、高校3年くらいから始めました。当時の曲は全部ボツで残ってないです。

──音楽以外のものには、もっと前から触れていたのですか。

小林私:最初は本ですね。小学生の頃は読書しかしてなくて、全人類を馬鹿にして生きてました。もちろん運動部は嫌いだったし、当時はヲタクっぽいのも、それはそれで嫌いだったんですよ。

──絵はいつ頃からですか?

小林私:アニメとか漫画が好きだったんで描いてましたね。油絵は高校3年ぐらいのタイミングで、大学に行くなら美大か?と。勢いで美術系の予備校に入って気合いで入学しました。

──配信やYouTubeの動画を観させていただいてるんですが……。

小林私:あんまり観ない方がいいですよ。観てるって言わない方がいいです(笑)。

──活動を始めてから現在までで、特に嬉しかったことを教えてください。

小林私:人に会えた系で言うと、ダ・ヴィンチ・恐山さんに会えたことが一番嬉しかったですね。Webライターの方です。僕「アイドルマスターシャイニーカラーズ」っていうゲームが好きで、それがきっかけで、ゲーマーの人が出るSignaterっていうYouTubeチャンネルに、僕とダ・ヴィンチ・恐山さんが呼ばれたんです。そこでお話しできたのが嬉しかった。音楽関係なら、僕、学園祭に出ることがめちゃくちゃ好きなんです。きっかけは初めて学園祭に出た時なんですが、明らかに挙動がおかしいやつがいて。

──ど、どんな!?

小林私:こう(ステージ上の小林私に大興奮!)「小林私が居るーっ!」みたいなやつがいて。「あ、今日はコイツのために演ろう」と思って。それから、「学園祭は誰か一人、めっちゃ好きで呼んでくれたやつがいるから出る甲斐があるんだ」って思えるようになりました。あれは嬉しかったです。

──いいお話ですね! 小林さんは、小説や短歌にインスパイアされ作品を作っているように感じるのですが、作詞作曲をする中で、特にインスピレーションをうけているアーティストさんや作家さんがいれば教えてください。 

小林私:文字は見てますね。歌詞になりそうとか、いい言葉だなとか、ずっと考えています。すげーなって思うのはトリプルファイヤーと面影ラッキーホール。今いるアーティストの中でも、圧倒的に作詞作曲能力が半端じゃない!

──では続けて3rdアルバム『象形に裁つ』についてお聞きします。 メジャー1st、おめでとうございます!

小林私:ありがとうございます。

──どんな作品になりましたか?

小林私:しばらくアルバムを出していなかったのもあり、前作から今作までの空いた時間の中で作っていた曲を、色々盛り込めたのでよかったなと。おまたせ、という感じはありますね。

──ファンの方がよく、小林私さんの書く詩は小説のようだとおっしゃっているのを目にします。作詞するなかで意識していることを教えてください。

小林私:あんまり詞になってこなかった言葉が歌詞になるのが僕は好きなので、チャレンジしたいなと思ってます。あと、説明的すぎないことを意識してますね。美大の時、教授に死ぬほど言われたんで(笑)。

──絵が説明的にならないようにと?

小林私:はい。一応ポップスではありたいと思うので、小難しくしたいって気持ちは持ってません。説明的すぎないようにしつつ、聴く人を馬鹿にしない、ですかね。

──最近の日本の音楽の中では珍しいくらい英語が出てこなかったり、曲によってはカタカナすら出てきませんよね。

小林私:そうですね。出してカタカナぐらいです。それは単純に英語ネイティブじゃないんで、扱うには難しいだろうなと。英語のほうが、サウンドには圧倒的にノリやすいんですよ、音節的にも。日本語ってめちゃくちゃ引っかかる。それを綺麗にのせたいなって気持ちはあります。

──口語でもない、書き文字……文語の歌詞もありますよね。

小林私:口語はあんまり書けないんですよね。恥ずかしくて。

──自分の感情が出すぎてしまうからでしょうか?

小林私:お前に向けて歌ってんだ! って感じになって……あームリムリ(笑)。

──そういう意味では、ラブソングが少ないというのも関係していますか?

小林私:直接言うべきだろうなって言葉は使わないようにしていますね。ありがとう系とか。それはもう、「直接そいつに言えよ」って思うんで。

──8曲目の「花も咲かない束の間に」が収録曲に決定した時は、デジタルEP「後付」が配信停止になって悲しんでいたファンの喜ぶ声が多かったと、SNSを見て感じました。今回、この8曲を収録曲として選んだ理由を教えてください。

小林私:「花も咲かない束の間に」とか「線・辺・点」、「四角」はいつまで音源ないんだ? って感じだったので、入れないとなと。あと、単純にその時の新曲だった「杮落し」は入れたいなって。何曲か決まってきたら、流れがいい曲を……と決めたような気がします。

──今年の4月にデジタルリリースもされている「杮落し」ですが、言葉自体は“新築の劇場で初開場する”という意味だと思います。所属事務所が変わった後の一発目ということもあって、新たな環境で音楽活動を始める小林さん自身を表しているように感じました。

小林私:それはもう……たまたまですよ(笑)。「杮落し」は最後までタイトルが決まらなかったな。後から客観的に“こんなこと書いたんだ俺?”って気持ちで聴いて、たまたま1曲目になりましたね。まるで仕組まれたかのように。

──4曲目の「四角」からは、これまで抱えてきたものを取捨選択しなければならないことへの葛藤を感じました。これは小林さん自身の経験からきたものでしょうか。

小林私:「四角」は、こういうことを書くぞって決めて、タイトルも最初から決めて書き始めましたね。部屋を見渡した時に、本とかお菓子の空き箱とか四角いものばっかあって、人が住んでる感じがしないなと。有機物が全くなくて、人工物ばっかりだ! キモすぎ! って思って書きましたね(笑)。

──あまり物に執着するタイプではないのですか?

小林私:一定期間が過ぎたらポンポン捨てないと、物が増えていっちゃうタイプ。タダで貰えるものは取り敢えず貰っちゃうんで、一時期、僕の家にあるもの全部貰い物だったりして。

──では、環境や人間関係という、人への執着はどうでしょう。

小林私:環境や人には、僕はエグい執着ありますね。未だに中学の同級生とかにLINE送ったりします。「遊ばない?」って送ったら、「急になに? 仕事だよ」って返ってきました(笑)。「そっか! 仕事に決まってるよね、またね!」って(笑)。一回仲良くなった人とは、ずっと親交を続けたいタイプですね。しばらく会わなくて疎遠みたいな状況になってても、当時と同じ強度でずっと友達だと思ってるんで。数年連絡とってない友達とかに急に連絡とかもします。

──そんな距離の詰めかた、される方は嬉しいですよね。

小林私:それをしてると、遊びに誘ってくれるかな的なノリはありますね。高校の同級生と前触れもなく会ったり、大学の同期には会ってはいなくてもまだ友達だよなって思ったりしてます。人間関係はいいですよね、 どんなにあっても場所取らないんで。

──名言ですね。

小林私:漫画とか本は場所を取るから際限ないなと思って、最近は電子書籍も買いつつあります。「ONE PIECE」は流石に電子で買うしかなかった(笑)。103巻くらい電子で一気に買って、5日で読みました。

──5曲目の「繁茂(はんも)」では、“ゆっくり”という表現にスワ ヒリ語を使っているところが印象的でした。

小林私:ポレポレですね。

──あえてスワヒリ語使った理由はなんでしょうか?

小林私:スワヒリ語はポレポレしか知らないですけど(笑)。これは韻を踏みたいなと思いつつ、使ったことがない言葉もガンガン使っていきたくて。今はYouTubeを辞めちゃったみたいなんですけど、僕が一時期観てた登録者100人を切ってる弾き語りの人がいて。彼が「東京ポレポレ」って曲を、ギターを始めて一週間で作ってたんですよ。上手くはないんですけど曲になってるからすごいなって、ずっと観てた。それで覚えてたのもありますね。ポレポレって曲作ったやつがすぐ辞めたよ、って。ポレポレでいけや! って(笑)。

──かなりYouTuberさんをチェックされてますよね!?

小林私:まだ伸びてない弾き語り配信者ばかり観てると、おすすめに、どんどん再生数が少ない人の動画が出てくるんですよ。ブランデー戦記とかもそれで知りました。ちょうど1万再生いってないぐらいのタイミングで観て、Twitterに載せて。でも僕のおかげじゃなくて、 YouTubeのアルゴリズムで同時多発的におすすめに表示されたから、みんな観たってことなんですけど、僕が広めたみたいな雰囲気が出てて、結果ブランデー戦記が慕ってくれてるっていう。ラッキーですよ(笑)。

──今作は、金管楽器が入っていたりシンセサイザーが多めだったり、アレンジの幅が広いですよね。

小林私:そうですね。サブスク世代だからっていうのもあるかもしれないですけど、アルバム単位でまとめて聴くって文化、そんなに無いと思うので。せっかく何人にもアレンジを頼めるんだったら、頼んだ人の作家感を出してもらったほうが僕は嬉しいですね。

──次に音楽以外の活動について聞かせてください。YouTubeで生配信をしようと思ったきっかけは?

小林私:元々ニコ生みたいな配信を見るのが好きで、高校生ぐらいからツイキャスとかインスタライブをやってました。YouTubeは、パソコンをちゃんと使えるタイミングの時に、ぬるっと始めた感じですね。あれは完全に趣味です(笑)。

──小林さんの楽曲は思わず辞書を片手に聴いてしまいたくなるほど語彙が豊富ですが、それは配信でも映っている大量の本から得ている知識が反映されているのでしょうか。

小林私:どうなんでしょうね、文字情報だったら大体は影響を受けてると思います。面白いので言うと、国語辞典あるじゃないですか? その序文とか(笑)。この辞書を作るにあたって、どれだけの苦労があったかみたいなのが書いてある。

──配信でよく本が映っていますが、読者にオススメの本を3冊挙げるとすればなんでしょうか。

小林私:木下龍也という現代歌人の『天才による凡人のための短歌教室』っていうエッセイが、めっちゃくちゃ面白いです。ロジカルに現代短歌をやってる人はこういうこと考えながら現代短歌を書いてますよ……っていう本なんです。漫画でいったら、岡部閏の『世界鬼』ですね。好きな漫画を聞かれて毎回挙げてます。あとはKADOKAWAの編集長に教えてもらった、『腿太郎伝説』っていう本があって。マジでイカれた……表紙からしてヤバい(笑)。深堀骨っていう人の本ですね。

──では最後に、今後の活動の目標を教えてください。

小林私:そうですね、週頭に渋谷の居酒屋にカバン忘れてきてしまったので取りに行きたいですね(笑)。

──いや、もうちょっと長いスパンの、ミュージシャンとしての目標を……(笑)。

小林私:ミュージシャンとして……とかはあんまり無いですね(笑)。これまで生きてきて、目標設定したことがほとんど無いんで。設定すると、そこに向かって行っちゃうじゃないですか? 僕は、なるべく迂回して行きたいなって気持ちがあります。

──今を続けていくって感じでしょうか?

小林私:そうですね。ゴールを決めて何かを始めることが無いので。飽きたらやめようと思って絵とかも始めたんですよね。趣味とかめちゃくちゃありますし。やりたくなくなったらやめようと決めちゃってるんで、“ここが天王山だな”とか、あんまり設定しないようにはしてます。目標……なんだろうな。完全防音の家に住む、ですかね。

──隣家さえ近くなかったら音は出せそうですよね。

小林私:そうなんですよ、東京なんか住んでる場合じゃないですよね(笑)。完全防音の都心部とか、とんでもない値段でめちゃくちゃ狭いんで。目標は田舎の一軒家に住みたい、ですかね。

──田舎の一軒家に住みたいで締めていいですか(笑)?

小林私:山梨、でもいいですよ(笑)。

インタビュー&ライティング:川向秋奈、元生真由

Profile

1999年生まれ、あきる野市出身のシンガーソングライター。多摩美術大学在学時に本格的に音楽活動を始め、自室での弾き語り動画をきっかけに注目を集める。YouTubeでのユニークな雑談配信も相まって人気を博し、現在のチャンネル登録者数は16万人を超える。

Web Site   https://kobayashiwatashi.com

Twitter   @koba_watashi

Release Information

メジャー第1弾 3rd アルバム

『象形に裁つ』

NOW ON SALE

KICS-4108/¥3,300(税込)

Live Information

ワンマンライブ「分割、裁断、隔別する所作」

2023年7月15日(土)大阪GORILLA HALL

2023年8月5日(土)東京I’M A SHOW 

2023年8月27日(日)東京I’M A SHOW

「TRACKDAOWN」

2023年7月30日(日)渋谷チェルシーホテル/ 渋谷 Star lounge

※詳細は公式Web Siteをご覧ください。