Cutemen
結成から最新作までの30年、
そして、今を生きる若者たちへ。
CMJKスペシャル・ロング・インタビュー!
「僕じゃだめでしょうか?」
――まず、ユニット名の由来について教えてください。
CMJK:高校の頃、The Cureと、Echo & The Bunnymenというバンドのコピーをやっていて、その二つを合体させて、Curemenにしようかなと。けど、それだとあまりにもそのままなので、“r”を“t”に変えてCutemenとしました。
――お二人の名前の由来は?
CMJK:Picorinは、専門学校で自己紹介のときに「ピコピコ音楽、エレクトロが好きです」って言ったら、「ピコリン! ピコリン!」って呼ばれだして。18歳からずっとPicorinです。僕は、電気グルーヴでデビューする時に、石野くん(石野卓球)と瀧くん(ピエール瀧)は芸名がついてて。「北川くんだけ、北川潤はズルい!」って(笑)。
――ズルいって(笑)。
CMJK:当時、イギリス人のCut Master SwiftというDJを非常に尊敬していて、彼にあやかって、Cut Master Jun Kitagawa略して「Cut Master JK」と芸名を提出したんです。でも、ディレクターに「長いよ!」とCMJKに書き直されて。それから32年間ずっとCMJKです。
――CMJKさんとPicorinさんの出会いを教えてください
CMJK:僕は19から21歳の頃、お茶の水のジャニスという日本一在庫数が多い伝説のレコード屋さんの店員だったんです。そこで「自分のユニットのボーカルを探そう」とメンバー募集の張り紙をしたところ、Picorinが「僕じゃだめでしょうか?」と来まして。
――Picorinさんの印象はどうでしたか?
CMJK:当時の彼は、ちょっと挙動不審で変なファッションで、キモい客として有名で(笑)、「うわー、あいつが来たよー」と思ったんで。意地悪して追っ払ってやろうと「今デモテープ持ってるならいいよ!」と、めちゃくちゃ上から言ったんです
――……え。
CMJK:そしたらPicorinがウォークマンを出して、イヤホンで聴かせてくれて。それが、ものすごくいい声で! もう一秒もかからず握手して、一緒にやろうと決めました。
心のハードルを超えた
――では、新譜『Goodbye Real World』について聞かせてください。iTunes エレクトロニック・ランキング一位獲得、おめでとうございます!
CMJK:ありがとうございます!
――コロナの拡大やロシアの侵攻をうけ、楽曲を一から作り直したそうですね。制作していた曲を、すべて没にしたということですか?
CMJK:半分くらいですね。アルバムの前半は、メタバースに備えて「Goodbye Real Body」、アルバムの後半は「こんな現実は嫌だ〜!」ということで「Goodbye Real Mind」って感じなんです。ロシアのウクライナ侵攻やコロナが収まらないこと、最近はサル痘なんかも出てきたよね。そういう厳しい現実を受けて作ったのは、ほぼ後半の曲です。
――アルバムを改めて作る時に、二つの意味を考えられたと資料で読みました。CMJKさんは、メタバースがデフォルトになった未来に対して、どのような準備をしていますか?
CMJK:まず心の準備としては、偏見を持たないようにすることです。例えば、僕らはCDを出さずに配信だけなんです。だけど「CD出して!」って言う人もいて。19世紀に電話が発明された頃、「目の前にいない人に向かって喋るなんて失礼だ!」って抗議する人もいたんですって。
――えっ!
CMJK:だから、メタバースがデフォルトになるにあたっても、19世紀の「電話なんて失礼だ!」って言った人や、「CD出さないなんてどういうこと?」っていう人みたいにならないようにしようと。なんでも自分なりに受け入れられるような心の準備って、必要だと思うんです。僕もそのつもりです。
――未来に訪れる新しい形を、常に受け入れる心でいようと?
CMJK:そうです! はい!
――そんな経緯を伺うと、これまでCutemenが描いて来られた近未来やディストピアの延長になるのでは……とも思うのですが、全編の歌詞に希望が満ちている印象を受けました。
CMJK:そもそも、ディストピア作品がどうしてこの世に存在しているかというと、「こんな未来は嫌だ!」「こういう未来にしないようにしようね」と警告しているんだと思う。僕らもそのつもりでやっていたんです。
――はい。
CMJK:でも今回は「今これを作らないと!」と思いました。本当に現状に反対していかなきゃダメだし、ひねるのをやめて、なるべくシンプルにストレートにって心がけて。非常に苦しい制作でした。この歳・このキャラでこんなこと言うと何ですが、一皮むけた気がします。
――重い言葉ですね。
CMJK:ここに至るまで、ものすごい踏ん切りというか、心のハードルを超えました。
僕らのライブは非現実的な空間でありたい
――最近は、シンセウェーブや80’sが再流行していますが、どのように感じていますか?
CMJK:シンセウェーブは、僕らが青春時代に熱狂した音楽で。シンプルな話、大企業のトップは僕らと同世代で、彼らが今のあなたたちの歳の頃に流行ってた音楽なんです。だからリバイバルは当然で、色んなものが世代ごとに一生繰り返しますね。
――あと、シティポップなど、当時のサウンドが10〜20代に再評価されているのも感じます。
CMJK:ありがとうございます! そう感じてもらえたら嬉しいなと作っているところは、正直ありました。狙い通りです!
――ところで、「Goodbye Real Body」と「Goodbye Real Mind」という、アルバムタイトルと似ているこの二曲だけ、なぜインストなのですか?
CMJK:僕らは踊る音楽を作っているので、それに特化したインストが入って当然……というスタンスです。歌が入ってない方がいいって人もいて、純粋に踊ることに特化した曲も入れたいという思いがあります。
――Cutemenは視覚的なこだわりも強いですが、今回の衣装やジャケットなどのデザインには、どんな意図がありますか。
CMJK:80’sリバイバルをヴィジュアル的にももちろん意識していて、アーティスト写真及びジャケットのネタ元は、アンディ・ウォーホルです。です!
――ライブでもジャケ写そのものな衣装を着ていらっしゃいますが、あれは暑くないですか?
CMJK:暑いですよ(笑)! でも、僕らのライブは非現実的な空間でありたいので、仕方がないんです。
――では、今作『Goodbye Real World』の聴き所を教えてください。
CMJK:今までの話を総合して考えると、非常にメッセージ色の強いアムバムではあるんです。ではあるんですけど、夏に出したっていうのもあって、シンプルに聴き流してもらったり、気持ちいなって思ってもらえるのも嬉しいです。
まずは、まとめろ!
――では、プライベートについても触れさせてください。Instagramで投稿されているサンドイッチとカレーが、とっても美味しそうでした!
CMJK:遡りましたね(笑)。若い頃、イギリスに何度も行かせてもらって。向こうはサンドイッチがすごい沢山あるんですけど、一番典型的なコロネーション・チキン・サンドが日本であまり食べられなくて。それを再現する所から始まったんですよ。
――そのコロネーション・チキン・サンドには、何が入っているんですか?
CMJK:スパイシーなカレー風味の、ほぐしチキンです。エリザベス女王の戴冠式のときに、開発されたんじゃなかったかな? イギリスでは国民食です。で、そのコロネーション・チキン・サンドを作るにあたってスパイスをいっぱい集めたので、カレーも作るかっ! となって、最近はInstagramにカレーも投稿してます。
――ちなみに、自分が作った中で最高に美味しかったサンドイッチはなんですか?
CMJK:もうね、サンドイッチ作りすぎて一回転二回転して、セブンイレブンのたまごサンドが一番美味しい(笑)。行きすぎるとね、人は引き算・割り算にいきます。
――ところで、CMJKさんはデビューが23歳ですが、その当時は社会や未来に不安を感じられることはありましたか?
CMJK:いや、絶対に大丈夫だと思ってました。自分の夢とか目標は達成できると思ってましたねー。
――そうなんですね。その自信はどこから来てたんでしょう?
CMJK:ミュージシャンの後輩に限らず、役者さんであっても、絵を書いている人であっても、文章を書いてる人でも、クリエイター、プレイヤーみんなに言っていることなんですけど、大事なことは一つだけ。まとめる力です。何をまとめるかというと、俺こんなことしたいな〜! あんなことしたいんだよね〜! って内容をです。言ってるだけならただの妄想だから、それを形にしろと。
――たしかに!
CMJK:Picorinは、僕に追っ払らわれそうになった瞬間に音源を差し出してるんです。そういうことです。どんな作品を作るにあたっても、とにかく“ばっ! “とすぐ見せられるように、必ずまとめる癖をつけておける人は、絶対に上手くいくと思うんです。
――学校で制作したものや、履歴書でもいいですか?
CMJK:そう! なんでも! 多分プロになれない人は、まとめたことがないだけ。プロはみんなまとめて人に聴かせる、見せるという状態で必ず持ってます。それを習慣づけておけば、どんなことでも絶対にプロになれます。
――最初は上手くいかなかったとしても?
CMJK:そうです。ビリー・アイリッシュが、「自分が良くないって思った曲でもまとめろ!」「あなたが良いと思っていなくても、その曲をすごい好き! って言ってくれる人、世の中に四人だけでもいるかもしれない。だったらリリースする意味はある」と言っていて、僕と考えること一緒だなと思いました。
――CMJKさんは、読者層の10〜20代に、Cutemenの曲を聴いてどんなことを感じてほしいですか?
CMJK:「なんか軽くてノリが良くていいね!」とか、「聴いてしばらくしてから意味がわかった!」とか思ってくれたら嬉しいですし。それぞれに楽しんでいただけたら嬉しいです。
――現在、Cutemenのお二人が掲げている目標を教えてください。
CMJK:目標!? ないです。健康 (笑)! もうね、アルバム出したばっかりだから今は空っぽです。制作途中は二人でガンガン言っていましたけど、今はもう何もなくて。カウンターが0000にリセットされてます。
――では今後、Cutemenの活動はどんなスタンスでやっていかれるのでしょうか。
CMJK:そうですねー。エゴサして見つけたツイートなんですけど、ファンの方が「世の中がこうならないと、CMJKはCutemenの曲作らない」って書いていて、「あ、よく分かってるな」と。だから、「今作らなきゃー!」ってタイミングが来たら作ります。それまでは頭空っぽだと思います。
――今回、新譜リリースに伴ってライブを開催されませんでしたね。
CMJK:今回はライブをやらなくて良かったと思ってます。東京で感染者が一日に三万人を超える時期があったので、やっぱりね。うちのライブは失神する人がいるくらいギューギューで、酸欠でわーきゃー騒ぐんで。それが出来るようになったらやりたいです。
――世の中が落ち着いたらやってください!
CMJK:僕らはリリースとコンセプトが繋がっているライブをしているので、状況が落ち着いて何かリリースしてからやりますよ(笑)。
――では、ライブのためにも、また新譜を作っていただくということで!
CMJK:はい(笑)。頑張ります!
(インタビュー・文/秋葉虹乃)
●Profile
数多くのアーティストの作詞曲編曲プロデュースを手掛けるCMJKがPicorinと共に1991年に結成したテクノ・エレクトロ・ニューウェイヴ・ユニット。現在のEDMシーンに連なる礎を築いたが、シングル3枚、ミニアルバム2枚、フルアルバム2枚を残し、1994年に活動を休止。その後、短期間の再結成や別名義での活動を経て、デビュー25周年の2016年に本格再起動。2021年6月に2年ぶり6枚目のフルアルバム「Goodbye Real World」を配信し、iTunesエレクトロニック・アルバムランキングにて1位を獲得した。
Web site:https://www.jvcmusic.co.jp/-/Artist/A002795.html
Twitter:@CutemenOfficial
●Release Information
6th アルバム 「Goodbye Real World」
22nd Century Tunes
※サブスクリプション、ダウンロード
Goodbye Real Body
Kissing In A Flying Cab – Album Version
Cyber Disco Night
Memory Factory
Another Space, Another Planet
Perfect You
Goodbye Real Mind
Love On The Beach – Album Version
Thinking Of You
マリアナ海溝にて
The Color Breeze
Dream Catcher
全12曲収録