Interview

さらさ

2024/07/13

気負わず作った曲でデビュー。

どんな状況でも真摯に音楽を伝えるジャジーなシンガーソングライター


──7月にリリースされた新曲について教えてください。

8月にアルバムを出す予定なのですが、その前にシングルカットとして、「祝福」をデジタルリリースしました。“祝福”という大きなテーマですが、ポジティブな要素より儚いような、物事には終わりがくる、という。悲しいことだけど、その中に小さな尊い部分があって、“祝福”と呼べるものを見出している曲です。

──小さな尊い部分を、大きく祝福としたのは?

私、フェスの日は晴れるんですけど、ワンマンライブの日に雨が降ることが多くて。私はライブに行く側でもあるので、雨だと少しだるいなと思ったりする気持ちが分かります。そんな雨も、“祝福の雨”という言葉があるように、とても歓迎されている面もあって。ライブの日は、自分にとって大切な日なので、雨のなか来てくれると嬉しくて、MCで多く話したりするんです。そういうことも含めて、私には“祝福”は比較的身近な言葉で。ちょっと嫌だなということでも、どうやったら楽しめるかを意識しています。別れやどうしようもない出来事に直面した時、それをただ悲しいとか嫌だと思うのではなく、“祝福の雨”のように一個一個の感情を繊細に感じ取れる自分の心でありたい。「祝福」には、ある出来事があったから新しい考え方や経験を手にできたという一歩引いて見る感情と、どうしようもなくて落ち込んでぐちゃぐちゃになっている感情が共存しています。歌詞は、前向きな言葉もあるんですが、比較的食らう言葉も多いと思っていて、でも最後にタイトルの“祝福”という言葉で前向きになっているのが自分らしいと思っています。

──ジャケット写真は、どのようなコンセプトですか?

今回はシンプルに。これまではフィルムカメラを使ったり、歌っている瞬間を撮ったりという二度と撮れない、再現性がないことを大事にしてました。でも、今回は自分自身に焦点を当てて表情で引き込めるようなものを作れたらと思っています。

──多くのフェスに参加されていますが、フェスの魅力は何ですか?

祝祭感。お祭りじゃないですか! 非日常に近い感覚、ライブ感が強いですよね。自然が好きなので、空の下や山が見えるのも魅力です。都内のフェスでも青空の下は、ものすごく気持ちいいですね。

──フェスやイベントで印象に残っているエピソードは?

エピソードというか、有難い経験がたくさんありますね。2年前、日比谷野音でGLIM SPANKYさんと同じイベントに出演させていただいて。実は、GLIM SPANKYさんの「大人になったら」という曲を自分の曲を作る前、高校生の頃から弾き語りでカバーしていたんです。居酒屋でバイトをしていたとき、夜遅くなってくると歌って〜って言われて「大人になったら」を歌って。それでみんなが泣くっていうパワーのある曲で。GLIM SPANKYさんに現場でお会いできるようになって、ツーマンライブや楽曲でコラボさせていただいたりして、その話をご本人にしたら、ライブのMCで「大人になったら」の“知らないあの子が私の歌を口ずさむ夜明け”が現実になったとおっしゃって、「大人になったら」を歌ってくださったんです。めちゃめちゃ泣いて、感動というか。わーっと泣いて。こんなことがあるんだな、と思ったんです。こういうことって夢があるというか、高校生の時にカバーしていた私は、ミュージシャンになるとか、曲を作ったりするとか思ってもなかったから。とても嬉しい出来事でした。

──では、今後、歌ってみたい場所はどこですか?

美術系の学校だったので、アーティストの知り合いが多くて、美術展のオープニングや美容室など、いろんな場所で歌っています。でも自分の夢としては、日比谷野音でワンマンをやりたいです。歴史のある場所ですし、何回か立たせていただいているんですけど、毎回自分でもびっくりするようなことが起きるんです。そういう場所なので、いつか自分名義のワンマンライブができたらと思っています。

──具体的にどんなことですか?

GLIM SPANKYさんとのこともそうですし、高校生の頃からライブに行っていた、さかいゆうさんのワンマンライブで、ゆうさんの背中を見ながら歌っている時もすごく不思議な感じで。そして、昨年の日比谷音楽祭のDream Sessionで、UAさんの曲をカバーさせてもらったのも夢みたいでした。

──一緒に演奏するアーティストからどんな影響をうけますか?

5月にリリースされたNakamuraEmiさんとの「雪模様(feat. さらさ&伊澤一葉)」は、自分の楽曲では出さない高いキーの曲で、挑戦でした。清竜人さんとご一緒した「Love is over…」も、結構キーが高い曲です。自分では挑戦しないことにトライするのもフィーチャリングの醍醐味だと思います。改めてこのキーで歌うとこんな感じになるんだ、という新しい発見が多いです。

──いろんな方とコラボをされていますが、どんな方と一緒に作品作りをしてみたいですか?

昨年行った台湾と韓国は、言葉が通じなくても、曲を気にいってくださったりライブを楽しんでくださったりして、とても楽しくて印象的でした。なので、海外、特にアジア圏のアーティストと一緒にライブや制作をしたいですね。

──言葉が通じなくても楽しんでもらえるのは嬉しいですね。お客さんの反応は、ライブにも影響しそうですね。

それが、実はあまりしないんです。盛り上がるのは全然問題ないですし、盛り上がらなくてもあまり気にしないタイプです。どんな反応でも、やることは同じなので全力でやります。静まっていても誰か一人に届けばいいと思っていて。誰にも刺さってないなと思った時でも「すごく良かった」と言ってくださる方や、「あの時、聴いて好きになって今日のワンマンに来ました」と言ってくださる方がいらっしゃって。静かなときでも何か感じてくださる方がいるかもしれない、だから状況を気にせず誰かに届けばいい、という気持ちで歌っています。

──ライブやフェスでは、ソロセットとバンドセットがありますが、どう違いますか?

ソロセットで弾き語りが多い時は、お客さんと密にコミュニケーションしながらライブをしています。ステージにいる人数が限られている分、できることも限られているので、誤魔化しが利かない難しさがありますね。昨年のソロセットのワンマンは、修行のような気持ちで取り組みました。楽しむ部分もありますが、集中してる感覚が強いです。バンドの場合は、素晴らしいバンドメンバーがいるので、メンバーとの会話とお客さんとの会話が半々みたいになります。一対一でお客さんと向き合うソロとは違って、作り上げたものをショーとしてお客さんに見てもらう感覚です。一緒にやっているミュージシャンが素晴らしい方々なので彼らに助けてもらいながらも、自分が一番輝いていなければならないというプレッシャーがあります。最近はトリオ編成もあって、ドラムレスでジャジーな音楽を前面に出してます。ソロ、バンド、トリオそれぞれで全く異なる色があるので、お気に入りのセットを見つけてもらえれば嬉しいです。

──ちなみに、SNSのユーザーネームomochiningenが気になります!

ですよね。このアカウント(オモチニンゲン)は、高校生のとき母親に「白くてプヨプヨしててお餅みたいだね」と言われて、「分かりやすい!」と思って作ったものを変えていないだけで。アーティストの友達からは、「事務所から変えろって言われないの?」って言われてます(笑)。

──では、改めて、ジャンルの幅が広いのはなぜですか?

自分にルールを設けないことでしょうか。法律で決まっていること以外は何でもしていいので、「こうじゃなきゃいけない」とか「良い曲を作ってると思われたい」とか、そういうルールや評価みたいなものをなるべく排除するように心がけています。これまでR&Bのテイストの楽曲が多かったのですが、「祝福」は、ロックっぽい要素が入ってます。極端なことを言えば、明日からパンクでもよくて。そのくらい捉われず音楽を作っています。自分に正直で居たいので、ジャンルに捉われないという印象を持っていただけたのなら、嬉しいです。

──ルールを設けないようになったきっかけは?

高校時代、軽音部でジャムセッションの楽しさを知ってセッションミュージシャンを目指していたんです。でも、ある時、自分は向いていないことに気づいて、そうしたら音楽も嫌になってしまって。1年くらい歌わない期間があったんです。音楽はもう辞めたんだ、と自分でも思っていたんですが、心を休めたら歌いたいという気持ちが生まれてきて。その時に、音楽は辞める辞めないではなく、自分の中にずっと流れているものだと気づきました。それで、曲を作ってみようと思って。その時作ったのが、デビュー曲「ネイルの島」です。コードも知らないし、譜面も読めない理論的なことを知らない自分に引け目を感じることなく、自分が良いと思う曲を作ろう思って、人の評価を気にせず脱力した状態で生まれた曲です。その曲が認められて、自分の中の軸になっています。もし、すごく辛く落ち込んで死にたいと思っているときに作った曲で評価されてしまったら、その感情に捉われてしまって辛いんじゃないかと思ってます。

──自分を客観的に見てらっしゃるように感じます。広い視点を持つために大事にされていることは何ですか?

あまり自分にプレッシャーをかけないことかもしれないです。もちろん、ワンマンライブを成功させるためにしっかり準備するような良いプレッシャーもありますが、不確定なこと、自分の努力ではどうしようもないことは、あまり考えないようにしています。例えば、コロナ禍でライブができない時期が続き、ミュージシャンという立場が社会的にどう見られているかを感じて落ち込みました。その時、自分には音楽しかないと思っていたら危ないなと感じたんです。声が出なくって音楽ができなくなったら簡単に人生が終わってしまうという恐怖を感じて。音楽はとても大事で一番情熱を注ぎたいものですが、音楽以外でもやっていけるはずと考えるようにしてます。これは、一度音楽を辞めた経験から、辞めても必要ならまた戻れると知っているからかもしれません。そういう心のゆとりを持つようにしています。

──最後に、今後チャレンジしてみたいことは何ですか?

絵を描くので、自分の個展でライブしたいですね。そして、今回のアルバムのMVは、「ネイルの島」ぶりにディレクションをガッツリやるので、それも楽しみです。人にお任せすると偶発的に生まれるものの楽しさもあるんですが、自分の表現を密度高くアウトプットしたい、と思っています。そして、日比谷野音でのワンマンライブです。

インタビュー&ライティング:大嶋美月・伊藤 緑

Profile

湘南の“海風”を受け自由な発想とユニークな視点を持つシンガーソングライター。 SOUL、R&B、ROCKなどあらゆるジャンルを内包し、ジャジーでオルタナティブ、どこかアンニュイなメロディと憂いを帯びた歌声をもつ。

X:https://x.com/omochiningen_

Instagram:https://www.instagram.com/omochiningen/

Youtube:https://www.youtube.com/channel/@Salasa_official

Release Information

デジタルシングル「祝福」

NOW ON SALE

単曲配信/サブスクリプションサービス・ダウンロードサービス

Live Information

SALASA TOUR 2024

2024.9.4@at 名古屋 ell.FITS ALL

2024.9.5@ 大阪 梅田Shangri-La

2024.9.10@ 東京 恵比寿LIQUIDROOM

※詳細は公式SNSをご覧ください。