Live Report

トランペットとサックス、言葉のない音で伝える。Passo a Passo「ここにしかない時間と感動」

2022/12/24

Passo a Passo Concert 2022
2022/11/26
柏市民文化会館

2022年11月26日に柏市民文化会館で開催された<Passo a Passo Concert 2022>。このコンサートは2013年から毎年行われ、今年は9回目の公演となった。Passo a Passoは、トランペット奏者・藏持智明とサックス奏者・柗井拓野のユニット。彼らは中学・高校と同じ部活に所属し、その後Passo a Passoとして活動をしている。Passo a Passoは、イタリア語で「一歩一歩」という意味だ。

今回のコンサートのコンセプトは“9”。物事が切り替わる直前という意味が込められている。「9は1足すと10になる、10は逆に0になる」とコンサート中に語った。セットリストやオープニング映像も“9”にちなんだ構成となっていた。

第一幕は、薄い幕に映し出されたオープニング映像から始まった。

新衣装のダークブラウンのロングコートに身を包みハットを被った柗井拓野(Sax)、藏持智明(Trumpet)が登場。バンドメンバーの山元しゅんこう(Piano)、村山遼(Guitar)、米光椋(Bass)、阿部将大(Drums)が楽器を構え彼らを迎える。会場のボルテージは一気に上がる。

1曲目は、“9”にちなんだドヴォルザーク作曲の「交響曲第9番「新世界」より第四楽章」。有名なクラシック曲で通常オーケストラで演奏されるが、このステージでは、ドラム、ギター、ベース、ピアノ、トランペット、サックスでのアレンジ。メインパートをトランペットとサックスがとり、始まりに相応しい迫力のある演奏だ。聴き馴染みのあるフレーズだが、会場で聴くと見えない何かが迫り来るように感じる。

スウィングジャズの時代を代表する「Take the “A” Train~A列車で行こう~」がスタート。照明とマッチし、各楽器のソロでは楽器が持つ音が曲を引っ張り、メロディを明確に歌う。ミュージカルの一部を切り取ったようなパフォーマンスを含んだステージは、まるでアメリカのショーを観ているかのようだ。続いて披露したのはメンバー柗井拓野が作曲をした、Passo a Passoの人気ナンバー「My Drive」。グルーヴ感があり彼らの世界へ自然と引き込まれる。彼らが奏でるユニゾンは心地よく耳に残り、次にどんな展開が来るのかワクワクする。曲中に白い衣装を着たダンサーが登場し、新たなショーのようだ。

曲を終えると、1回目のトークコーナーへ。自己紹介とともに今回のコンサートは「9回目ということで、9にちなんだ曲をたくさんやります!」とコンサートに対する熱い思いを語る。2人がマイクを置き、ジャズのスタンダード曲「Birdland」、Earth, Wind & Fireのヒット曲「September」へ。観客も手拍子でリズムを真似する演出があり会場は強い一体感で包まれた。特にバンドとサックスの掛け合いが楽しい。 

2回目のトークコーナーでは、コンセプトである“9”について語った。トークテーマに対し、藏持が「俺は9月9日生まれだからMr.ナインだぞ!」と言うと、会場は笑顔で包まれた。そして、グッズ紹介も。「ペンライト、1本買うと1000円ですが、2本セットで買うと~?」(ドラムロール)「1500円なんです!!」と、Passo a Passoのユニークさが伝わるとても楽しいグッズ紹介だった。

90年代ヒットメドレーでは、「ラブ・ストーリーは突然に」、「ズルい女」、「君がいるだけで」、「LA・LA・LA LOVE SONG」、「GOLDFINGER’99」の5曲を吹奏楽アレンジで披露。Passo a Passoが魅せるJ-POPのアレンジは、コンサートの目玉のひとつだ。ステージセットに座り、懐かしそうに演奏する姿は90年代の楽曲とマッチしたエモさがあり最高の演奏だった。

続いて、オリジナル曲「Sugar beat Disco」、「宵の華道」。小道具に新聞紙を使い、男性ダンサー2人とサングラスを身につけクールに決めたPasso a Passoのコラボから始まった。曲の途中で2人の女性ダンサーも登場し、さらに華やかなステージとなり第一幕が終わった。

第二幕は「RiverDance」から華やかにスタート。昨年のコンサートからダンス付きで披露していたが、今年はさらに振り付けに力を入れパワーアップ。アイリッシュ音楽・アイルランド独自のダンス要素を取り入れ、激しい曲調にも関わらずしなやかな動きのダンサー、2幕から加わったヴァイオリン2本・チェロ・ヴィオラの弦楽器、白い衣装に身を包んだPasso a Passoから目が離せなかった。

そして、今回演出を務めた山口将太朗が登場し3人でのトーク。昨年は振付師として、今年は演出家として関わっている。制作するなかで“9”をコンセプトにこだわったことや、「分かりやすくいうと、演出家は依頼者のこうしたいという欲を建築家のように組み立ていくイメージだ」と、演出家の仕事について語った。

トークの終盤から、初企画である「Passo a Passoガチ演奏対決」が始まった。この企画は2つのボックスに入っている紙を1つずつとり、その言葉を足して1つのフレーズを作る。そのフレーズに合った曲を即興で演奏し、どちらが良かったかを赤か青で決めるというものだ。

赤がトランペットの藏持智明、青がサックスの柗井拓野となり、観客はグッズの2色のペンライトかパンフレット表・裏を使って参加をする。1回戦のお題は「夜空を見ながら聴きたい美しい曲」で、柗井拓野が勝利。2回戦は「筋トレ中に聴きたい可愛い曲」で、藏持智明が勝利。白熱の戦いのなか最終決戦のお題はこの時期にぴったりな「クリスマスに聴きたい楽しい曲」。「サンタが街にやってくる」を演奏した藏持智明が勝利し、会場から祝福の拍手が上がった。この対決に対しお互い「こんなに嬉しい/悔しいとは思わなかった!」とコメント。

最後の曲に入る前に、「2人は何のためにコンサートをやっているか」を語った。柗井は「まだまだSaxには可能性がある」と答え、藏持は「Passo a Passoはアーティストの枠を超えたコミュニケーションツールになれればいいと思う」と答えた。この言葉を聞いた時、もっとたくさんの人に管楽器の魅力を、インストの音楽の魅力を知ってもらいたい、と心の底から感じた。

Passo a Passoに対する熱い想いを語った後に演奏したのは、「チョコレート・ダモーレ」とベートーヴェンの「交響曲第9番より 第四楽章」だった。この2曲を吹き終えた後、鳴り止まない盛大な拍手が会場を包み込んだ。

観客の期待に応え、アンコールへ。曲は、「ぱっそdeかーにばる」。Passo a Passoのコンサートに来たら絶対に聴きたいとても楽しい曲だ。この曲だけは撮影OKとなり、観客は携帯を手に取り「ここにしかない時間」を残していた。間奏ではメンバー紹介があり、一体感がさらに高まったままコンサートは幕を閉じた。

【ライブを観終えて】

エンターテイナーにとって重大な問題となっている「新型コロナウイルス」。彼らはそれと向き合いながら、さまざまな学校やイベントで音楽を届けています。彼らが届ける音楽には他では味わえない特別さが溢れています。私は今回4年ぶりに会場である柏市民文化会館に行き、Passo a Passoのコンサートを見て、ホッとする気持ちになると同時に、明日も頑張ろうと思うことができました。彼らの魂の音楽を正面から感じ、同じ時間を共に過ごせたことがとても幸せでした。

来年、彼らが始めたこのコンサートは10回目を迎えます。普段、歌詞がある楽曲を聴くことが多い方にもぜひ聴いていただきたいです。そして彼らが生み出すここにしかない時間と空間のなかで、心動かす音楽を堪能してほしいと思います。

彼らの演奏は、ショッピングモールや小中学校、お祭りなど千葉県柏市を拠点にさまざまな場所で聴くことができます。また、YouTubeには、このコンサートに関わる企画や、流行している曲の演奏してみた、過去のパフォーマンス動画も投稿されています。私のオススメは柗井拓野がにんじんやわさびなど実際の野菜に穴を開けて作った野菜楽器である曲を演奏している動画『野菜を楽器にしちゃった!「野菜サックスアンサンブル」』です。

2022年2月には、『スクール革命』という日本テレビの番組でも紹介されています。

彼らの魅力を知れば知るほどハマっていきます。皆さんも彼らと共にここにしかない素敵な時間を過ごしてみませんか?

ライティング:加藤優碧
撮影:松林満美・根岸俊明

セットリスト

<第一幕>

交響曲第9番「新世界」より第四楽章(A.ドヴォルザーク/arr.山本 清香)

Take the “A” Train ~A列車でいこう~(B.ストレイホーン)

My Drive(柗井拓野)

Birdland(J.ザヴィヌル)

September(Barth, Wind & Fire)

“90 J-Pop メドレー:ラブ・ストーリーは突然に/ズルい女/君がいるだけで/LA・LA・LA LOVE SONG/ GOLDFINGER’99(arr. 山本 清香)

Sugar beat Disco(柗井拓野)

宵の華道(柗井拓野)

<第二幕>

River Dance(B.ウィーラン)

交響曲第9番「新世界」より 第二楽章(A.ドヴォルザーク/arr. 酒井 麻由佳)

Passo a Passo ガチ演奏対決!

チョコレート・ダモーレ(伊藤康英)

交響曲第9番より 第四楽章(L.v.ベートーヴェン/arr. 山本 清香)

Profile

Passo a Passo(パッソアパッソ)

トランペット奏者・藏持智明とサックス奏者・柗井拓野の中学高校の先輩後輩ユニット。「Passo a Passo」はイタリア語で「一歩一歩」という意味を持ち、2人の恩師で作曲家の田嶋勉氏の委嘱作品のタイトルから名付けられた。「ここにしかない時間」「心を動かす音楽」をコンセプトに老若男女が楽しめるコンサートを提供するために活動。招待やゲストで出演するだけでなく、学校での訪問演奏や全国各地でコンサートを行なっている。

Web Site:https://www.passoapasso-japan.com/

Twitter:@PassoKashiwa

Instagram:@ passo.a.passo.tp.s

YouTube:https://www.youtube.com/channel/UCQ9uv_v9arWPjDeY7OjlfpQ